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【WEB版】ホップ農家就農ガイド
岩手県遠野市では次世代ホップ農家を募集するために、「ホップ農家就農ガイド」を制作しました。このページではWEB版として内容を掲載します。
現在、2024年度の次世代ホップ農家募集を行なっております。
詳しくは、次世代ホップ農家の募集について【地域おこし協力隊】のページをご確認ください。
遠野市とは
遠野市は、岩手県の東南部に位置する人口約2万5,000人の市です。柳田國男の『遠野物語』で知られ、河童や座敷童子などが登場する民話が数多く伝わっています。かつては岩手県の内陸と沿岸を結ぶ宿場町として栄えた交通の要所で、人々や物資が集まり、情報や文化が交わる場所でもありました。
また、四方を山に囲まれた盆地で、気候は寒冷地に属しており、一年を通して朝晩の寒暖差が大きいのが特徴です。そのためみずみずしく、生命感あふれる野菜が育ちます。近年では、移住者も増えており、さまざまな分野での活動が活発です。永遠の日本の故郷ともいわれる遠野市の美しい里山の風景の中で、農業に挑戦しながら暮らしてみませんか。
ホップとは
ホップはアサ科のつる性多年草植物です。ビール特有の苦みと香りのもととなり、泡を安定化させたり、ビールの保存性を高めたりする働きがあります。ホップ栽培に適しているのは、冷涼な気候です。遠野市は世界的なホップ生産地と同緯度にあり、冷涼で寒暖差が大きいため、ホップ栽培に最適な地域だといえます。そのような気候もあり、遠野市のホップ栽培面積は日本一で、キリンビールの契約栽培地として長く栽培を続けているのです。美しい里山の中に佇むホップのグリーンカーテンや、その収穫作業は遠野市の夏の風物詩といえるでしょう。
しかし、農家数の減少によって、その景色も少しずつ失われています。遠野市のホップ生産量・生産面積は、ピーク時から6分の1以上も減少しています。遠野市ではホップ栽培を未来に残すために、新規就農者の誘致だけでなく、ホップやビールを軸にしたまちづくりなど、さまざまな活動を多くの関係者とともに行っています。その結果、近年では新規就農者が増えはじめ、新規就農者のホップ生産量は遠野市のホップ生産量の3分の1以上を占めるまでになりました。近年、日本産ホップやホップ生産地の遠野市が注目されはじめてきています。
ホップ農家就農までの流れ
STEP1 情報収集・就農相談
まずは情報収集から始めましょう。TONO Japan Hop Country のWEBサイト(https://japanhopcountry.com)で、ホップ栽培や遠野の取り組みについて調べることができます。より詳しく知りたいと思ったら、遠野市農林課の就農相談へお問い合わせください。
担当:遠野市農林課
STEP2 農業体験・短期研修
農作業を実際に体験し、現地の農家と触れ合って、自分に合っているかを確認しましょう。遠野市では、5月~8月に農作業の体験イベント(1日)、短期研修(7日~1カ月)を開催しています。
担当:遠野市農林課、岩手県農業公社、株式会社BrewGood
STEP3 面談・長期研修
農業体験や短期研修後に就農したいという希望があれば、遠野市や遠野ホップ農業協同組合との面談を実施します。その後、条件などに合意できれば、遠野市での就農を前提に長期研修へ移行します(研修期間は1~2年)。長期研修は、就農に向けて栽培技術や農業経営を習得する期間です。遠野市では、ホップ農家だけでなく行政や民間企業(株式会社BrewGood)が連携した育成プログラムを実施しています。
担当:遠野市農林課、株式会社BrewGood、里親農家
STEP4 新規就農
長期研修が終われば、いよいよ独立就農となります。ホップ栽培は一人だけでは行えないため、独立してからも他の農家と協力して栽培しますのでご安心ください。ともに遠野市のホップ栽培を盛り上げていきましょう。
担当:遠野市農林課、遠野ホップ農業協同組合
ホップ栽培の流れ
下記がホップ栽培の年間スケジュールです。
各作業の詳細は下記のリンクをご確認ください。
株開き(株拵え):【ホップ栽培通信】ホップの株を剪定する作業「株拵え」
選芽:【ホップ栽培通信】成長するホップの芽を選別する「選芽」
誘引:【ホップ栽培通信】伸びた芽を糸に絡ませる「誘引(ゆういん)」
蔓さげ:【ホップ栽培通信】伸びたホップのつるを引き下げる!?「つる下げ」
側枝切り:【ホップ栽培通信】ホップの収穫量を上げるための作業「側枝切り」
収穫:【ホップ栽培通信】丁寧に育てたホップをいよいよ出荷します「収穫・加工」
ホップ栽培の特徴
契約栽培で全量買取
遠野市はキリンビールの契約栽培地であるため、収穫したホップは安定した価格で全量買い取ってもらえます。売り先が決まっているので、安心して栽培に集中することができます。
栽培スケジュール
ホップは露地栽培です。栽培期間は3月下旬〜10月下旬。4月〜7月上旬に行う、ホップの株や蔓に関する作業は繊細な工程が多いため、大部分が手作業です。8月中旬〜9月上旬の収穫作業では、ホップ農家が集まって、遠野市内に2ヵ所ある乾燥センターを共同利用しています。
ホップ農家同士の協力
5月中旬〜6月上旬、8月中旬〜9月上旬は、ホップ栽培の農繁期です。ホップ農家は日頃からコミュニケーションを取り合い、自分のホップ畑以外の作業も手伝うなど、助け合いながら適期での作業完了を目指します。
気候による影響
ホップ栽培には、時期によって適切な気温と必要な雨量が決まっているため、その年の気候によって収穫量に変動があります。また、ホップは5.5mの高さの棚の中で栽培されるため、風と雨の影響を受けやすく、収穫時期は台風による被害も懸念されます。加えて、病気や害虫の被害を受けやすく、毛花の開花以降は定期的な防除作業が必要です。
土壌管理
ホップ栽培においては、適切な土壌の管理と適期栽培が重要です。遠野市ではホップ農家と連携し、毎年の土壌調査や農繁期の人手不足支援などのサポートを行いながら、良質かつ持続可能なホップ栽培に取り組んでいます。
他の作物との兼業
新規就農した農家の多くはホップ専業ですが、他の作物との兼業も可能です。遠野市で推奨している作物は、ピーマン、アスパラ、にんにく等です。兼業に興味がある方は個別にご相談ください。
収支モデル
ホップ農業の収支モデルを下記に記載します。販売金額は反収(面積あたりの収穫量)によって大きく変動します。収支モデルは新規就農者の実績をもとに試算した目標数字です。新規就農者の中には、反収を増やし、同じ面積で下記より所得が多い方もいます。
栽培面積1ha | 栽培面積1.5ha | 栽培面積2ha | |
---|---|---|---|
販売金額 | 約610万 | 約920万 | 約1,230万 |
栽培経費 | 約370万 | 約480万 | 約620万 |
所得 | 約240万 | 約440万 | 約610万 |
補足
・1ha=10,000平方メートル(1辺の長さが100m×100mの面積と同じ大きさ)
・2ha以上栽培する場合は人を雇う必要があります
初期投資
ホップ栽培のためには専用の棚が必要です。廃作予定の畑を引き継ぎ、棚もそのまま利用して就農する場合は、棚に関する初期投資は不要です。遠野ホップ農業協同組合では廃作になった畑の支柱等の資材を保管しており、新規で棚を建設する際に活用することも可能です。中古の支柱を使用した場合、棚の建設費用は1haで約500万ほどです。
農作業に必要な機械は、スピードスプレイヤー、トラクター、高所作業車などです。これらの機械は中古で購入する方が多いですが、一部の機械は他の農家や遠野ホップ農業協同組合に借りることも可能です。
補助金・助成金等リスト
2023年6月時点の情報です。
ビールの里プロジェクトとは
「ビールの里プロジェクト」とは、日本随一の生産地である遠野市が、持続可能なホップ栽培の実現を通じて、遠野市の地域活性化を目指し、ホップの魅力を最大限に活用しながら官民が一体となって未来のまちづくりに取り組むものです。
近年、この取り組みが遠野のまちに活気をもたらしています。毎年8月に開催される「遠野ホップ収穫祭」のほか、市内のホップ畑や醸造所を巡る「遠野ビアツアーズ」には多くの参加者が集まっています。遠野市にとって、ホップはひとつの農産物というだけにとどまらない、大きな可能性を秘めているのです。
私たちは遠野市でのホップ生産量をさらに増やし、持続可能なホップ栽培を進めていくために、次世代を担うホップ農家を募集しています。ホップ栽培を軸にしながら、一緒に新しい産業をつくり、まちを盛り上げていきましょう。
先輩農家インタビュー
安部純平(遠野ホップ農業協同組合 組合長)
プロフィール
遠野市でホップ栽培が始まった当初から、親子2代で栽培に従事する。遠野ホップ農業協同組合の理事を歴任し、2023年度から同組合の組合長に就任。地元の高校生が主体となって運営する「遠野ホップ和紙を育てる会」の中核メンバーを担い、若者に向けた遠野産ホップの普及にも取り組んでいる。
Q.ホップ栽培の楽しさや魅力について教えてください
収穫も含めて共同で作業することが多いので、仲間が共通の話題を持っていて、個人でやっていても何かあった時は他人も頼れるところ、アドバイスを貰えるところはホップ栽培の良さだと思っています。ホップ栽培は、キリンビール社との契約栽培のもと、昔から安定した価格で全量買い取りをしてもらえるので、他の野菜のように市場の影響を受けないという所は大きな強みだと思います。
Q.未来のホップ農家へのメッセージ
ホップは成長に合わせて作業が変わるので、同じ仕事をずっとやるより、仕事の移り変わりを楽しめる人にあっていると思います。手仕事と同じくらい機械を使った仕事もあるので、機械に興味を持って取り組める人はホップ栽培と相性が良いと思います。社会でいろんなことを経験して、そのスキルや考え方が生きる仕事なので、年齢が若くなくても問題ありません。都会に疲れた人、人間に疲れた人なども、遠野でのホップ栽培を検討してみてはいかがでしょうか。成果の良し悪しは自分の責任のもと、時間を柔軟に使いながら誰からも文句もいわれず、自分なりに作業できる環境があるので良いと思います。
西舘正和(ホップ農家8年目)
プロフィール
木工職人として長らく活動した後、岩手県盛岡市から夫婦で移住し、ホップ栽培に従事する。現在は、遠野ホップ農業協同組合の監事を務める。新品種ホップである「ムラカミセブン」の栽培スペシャリストとして知られ、これまでの知見を活かした農家の指導役も担う。
Q.ホップ栽培の楽しさや魅力について教えてください
新規就農にあたっては、他の作物に比べても、民間企業も含め色々な方がサポートに関わっているのがホップのいいところかな、というのはすごく感じています。栽培に関しては他の作物に比べてもしっかりとしたモデルが確立していて、初心者にもしっかりと教えてくれる先輩方がいるので安心です。
それぞれが畑で仕事していて、何かあった時に気軽に誰にでも声をかけられる関係性が良いですね。困ったら皆が助けてくれます。当然、みんなそれぞれの農家は忙しいけれど、仲間の畑が遅れてるという話しが出ると、すぐに行って手伝います。自分の畑がそんなに進んでいる訳でもないのにね。でも、その関係性はすごくいいと思っているし、僕たちも大事にしていきたい。これから入って来てくれる人にもそういう関係性をいいなって感じてもらって、支える一員になって欲しいと思います。
Q.未来のホップ農家へのメッセージ
儲かるか儲からないかという視点だけではない、豊かな暮らしができると思っています。豊かさを数字だけで追い求めるのなら、会社員をやっていた方がよっぽど安定しているはずです。それ以上に、時間であったり、環境であったり、人であったり、そういった部分に豊かさを求める人だったら合うかもしれないですね。
農業をやってると 60 代でもまだ若手って言われます。若い方はもちろんですが、いろんなスキルや経験、気持ちを持っていたら年齢関係なく 50 代でも挑戦して良いのではないかと僕は思います。今までに自分がやってきたものは必ず栽培にも生きてきますから。
中村友隆(ホップ農家3年目)
プロフィール
岩手県出身。大学卒業後、三菱倉庫株式会社にて国内物流業務に携わる。2018年に退職し、遠野市に移住。地域おこし協力隊として3年間の研修を経て、2021年からホップ農家として独立。
Q.ホップ栽培の楽しさや魅力について教えてください
ホップは生育状況によって、今うまくいってるなとか、これちょっとやばいかもといった成果が目に見えやすいです。それでいて、目に見えない部分もいろんな要素が絡み合っていて奥が深いのも魅力の一つです。収穫作業をやっていても機械の乗り方なども、まだまだ勉強しています。ホップも、自分も、まだここをうまくできるのだろうなという伸びしろ、成長を感じられるのが面白いです。栽培に関してうまくいく方法はないかとか、長くホップ栽培をやってきた先輩農家ですら考えています。そういう良い方法を探し続けて考えるところなど、終わりが見えない面白さはあるのかもしれないですね。
Q.未来のホップ農家へのメッセージ
ホップ栽培に関わっていると、植物もその周りの人との関わり方も変化し、日々が刺激的です。収穫の時は様々な人が関わって、楽しい思い出になるし、色々な意味で今までと違った生活ができると思います。
面倒見がいい人たちが多く、アドバイスをくれるので、それに対して 1 回やってみますと素直に受け入れて実践できることが大切です。単純作業が続くことも多いので、飽きずに没頭できる人や、集中して淡々とできて、柔軟性があるひとが合っていると思います。また、少しでも機械に興味感心があったり、動かせると尚良いと思います。自分の機械もそうだし、共同で使う乾燥施設のメンテナンス作業などもあるので、機械にも興味を持ってそういうところにも取り組める人が良いですね。
里見一彦(ホップ農家4年目)
プロフィール
滋賀県出身。株式会社王将フードサービスにて餃子の王将王子店と蕨店で14年間勤務。主に調理作業を担当。2018年より地域おこし協力隊として遠野市に移住。研修を経て、2021年からホップ農家として独立。
Q.ホップ栽培の楽しさや魅力について教えてください
自分のやったことがダイレクトに結果として見えるところが魅力だと思います。成果や失敗が良い意味でも悪い意味でもわかり易いですね。日々、蔓の成長がみられるのでやりがいに繋がっています。見てわかり易いものは反省に繋がり易いです。
遠野のホップは、地域の農家や様々な関係者が集まって収穫するという特殊な環境なので、そのおかげで孤独になりにくいです。先輩農家とも日々会ってコミュニケーションをとるのでネットワークもできていきます。仲良くなったら色々教えてもらえます。相談できる相手を見つけやすいから安心ですね。若者というか外から来た人間に対してポジティブに受け入れてくれる人が多いです。
Q.未来のホップ農家へのメッセージ
計画を立てて動くことが好きな人には向いていると思います。栽培の全体の流れからいつまでにこれをやるという流れが結構わかりやすいです。基本的なタスクは月ごとにブロック単位でわかれていて、タスクの量は大きく増えないので、その中で試行錯誤しながらどうやって消化しようかって考えます。だから、そういうものが好きで、できる人は合っているのではないでしょうか。遠野のホップは契約栽培で全量買取なので、自分で売り込む必要がありません。だから営業は苦手だって自覚がある人にも合っていると思います。個人的には初心者にとってやりやすい作物だと思います。最近の新規就農者も元々農家やってましたって人は少ないですね。
お問い合わせ
就農のお問い合わせは下記までご連絡ください。
遠野市役所 産業部 農林課
TEL 0198-62-2111(代表)
〒028-0592 岩手県遠野市中央通り9番1号
受付時間:平日8:30〜17:15(土日祝は除く)
ホップ農家就農ガイド 2023年作成 TKプロジェクト実行委員会
制作:株式会社BrewGood
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